2024/2/8 琉球新報『週刊レキオ』表紙に掲載頂きました
「表紙」2024年02月08日[No.2022]号
宇宙につながる廃材アートの世界
久夫美術館
廃材をアートに。新たな命吹き込む
八重瀬町具志頭、海の見える高台に位置する「久夫美術館」は、画家の知名久夫さん(72)が11 年をかけて完成させた私設美術館だ。民家の廃材や流木などを再利用して建築されたという同館は、 久夫さんいわく「美術館という作品」。今年の1月に開業1周年を迎えた久夫美術館で、館長の久夫さ んと共同経営者である長女の仲宗根友子さんに話を聞いた。
物心ついたときから絵を描 いていたという久夫さんは 1 9 5 2 年、宜野座村の出 身。 16 歳のときに独学で油絵 を始め、以降、半世紀以上に わたり多くの作品を描き続 けている。その一方で、趣味で ある廃材収集で得たスクラッ プや流木を使った彫刻や家具 製作も取り組む。およそ 11 年 かけて建設した久夫美術館の 至る所にも廃材が使用されて いるという。
「波に削られたり、風化、 変色したものには特有のわび さびがある」と久夫さんが言 うように、館内は味わい深い 木の温かみがある。
「廃材の再利用はエコという だけでなく、こういう立派な ものにも生まれ変われるんで す。そういうところにも注目 していただきたい」と久夫さ んは語る。
家族一丸となって経営
久夫美術館オープンの裏に は、友子さんをはじめとする 家族の応援があった。
「父はこだわりが強いので、 美術館も造っては直しての繰 り返しでなかなかオープンに 至らなくて…私が無理やりオ ープンさせたんですよ。生き てるうちに、って!」と快活に 話すのは長女の友子さん。マ ネジメントの視点から、芸術 家である父・久夫さんをサポ ートしている。
館内に併設しているカフェ スペースや舞台の設置も友子 さんの発案だ。来てくれた人 にゆったりとした時間を過ご してほしい、という思いが込め られている。
「一番は母の支えがあってで す。母が介護の仕事をしなが ら大黒柱となって支えていま したから」と友子さんは言う。 建築面など、力が必要な場 面は長男の友木さんがサポー ト。SNSを活用した宣伝や 運営の面は友子さんが担当 し、家族一丸となって経営して いる。
360度に広がるアート
「宇宙と生命の不思議な世 界」をテーマに、館内には久 夫さんが 50 年以上描きため たという絵画のほか、廃材を 使った金属彫刻などが360 度、所狭しと展示されている。
その中から何点か紹介しよ う。大きいもので1㍍ほどあ る金属彫刻は、鉄くずやガス ボンベ、不発弾の破片を切断・ 溶接し、虫や鳥などをモチー フに空想上の生き物を形作っ ている。あえてさびさせるこ とで、化石や古代の遺物のよ うな印象を受ける。
現在制作中の絵画「パラレ ルシリーズ」では、明治〜大 正時代の沖縄の風景の中を、 人間と不思議な生命体とが 混在しているのが面白い。
最後に、今後の目標につい て聞いてみた。
「八重瀬町といえばここ! という新しい観光地にしてい きたいですね。県内の方はも ちろん、県外や海外の方など 多くの人に父の絵を見てもら いたい。ここに来たことをきっ かけに沖縄のアート界が盛り 上がればいいと理想的です」 (友子さん)
「飾っていない作品がまだた くさんあるものだから、展示 スペースをもっと広げたい」(久 夫さん)
まだ「未完成」だという久 夫美術館。興味のある方はぜ ひ、その迫力を間近で堪能し てほしい。
(元澤 一樹)
<久夫美術館>
八重瀬町具志頭1038-1
営業時間=10:00~17:00
定休日=月曜、火曜
入館料=500円(高校生以下無料)
☎098-914-0688